出発前、「グッド・フライト、グッド・ナイト パイロットが誘う最高の空旅 (Skyfaring: A Journey with a Pilot)」という本を読んでいました。アメリカ人パイロットが書いたとりとめもないエッセイです。話はフラフラとあちらへ飛んでは、こちらへ飛び、まるでパイロットの仕事をそのまま反映しているかのようです。面白くてお風呂のリラックスタイムのお楽しみとなっていました。アメリカ人で、経営コンサルをしながらフライトスクールに行くお金を貯めて、フライトスクールに通い、BAのB747のパイロットになった人です。
例えば冒頭に出てくるのがプレイス・ラグという言葉です。ジェット・ラグ(時差ボケ)は、体内時計の調整ができない速度でタイムゾーンを飛び越えた結果として生じるものですが、プレイス・ラグは、それと同じように乱れる”自分が今いる場所に対する感覚”と呼んでいます。私たちの中に根強く残る古い感覚が、旅客機の飛ぶ速度についていけないのではないかと、言っています。季節の違う北半球から南半球へ、10時間後には日本からアメリカへ、9時間後にはヨーロッパからアフリカへ。そこで感じる不思議なふわふわした感覚。
ついさっき出た北京のホテルの部屋は遠くに去り、気づけばウィーンで電車に乗っているのです。北京のホテルの部屋にいたのは、去年のことなのか12時間前のことなのかわからなくなる感覚が、パイロットのような職業の人にとっても共通なのだと知りました。

その他にも、へぇ〜と思うようなテクニカルな事にも触れられています。例えば、計器。最新の旅客機にはもはや磁気コンパス(もしくは磁力を検知する機能)がなく、たとえ管制官が西に針路を示したとしても、コクピットでは航空図のみを見て針路を決めるとか、登山者の間では未だに一般的な標準大気から算出する高度計を使って飛行する航空機はなく(空域が変わるたびに周りの気圧が変化するので、台風近く日本上空の高度35000フィートは高気圧に覆われたアメリカの空域の高度35000フィートとは異なる)レーダーを地表に反射させて高度を算出しているそうです。しかし、真下を34000フィートで飛ぶ飛行機がいるとその瞬間、高度が1000フィートと出てしまうとか。ちなみに、パイロットがよく受ける質問は、「UFO見たことある?」だそうです。
私は、どんな長距離便でも必ず窓際の席を希望します。2度と同じ形のない雲を見たり、ぼんやり沈んで行く太陽を見たり、地上の家や山を見たり、明るすぎる月を見たり、10時間ずっと見ていられます。
北京からの戻りの便、チェックインカウンターはSwiss air, Lufthansa, Austrian airの3社の3便のチェックインがたった4つのカウンターで行われており、2.5時間前に着いたはずなのにチェックインに1時間以上かかりました。

Automatic People Moverに乗るところで、真っ赤な軍団に出会いました。彼らはオーストリア航空のクルーです。靴からタイツから服からバッグまで全て真っ赤。ウィーンでも電車で通勤している人もいてよく見かけます。間違いなくウィーン便だろうと、この人たちについて行くことにしました。
Automatic People Moverに乗り込むと、隣に立ったのは3人のパイロットぽい人たち。そのうちの最も若い一人が、何気なく私の手元のパスポートとボーディングパスを見たような気がしました。パイロットの人も、この客がどこからどこへ向かうのかに興味があるのかな?と思い、思わず話しかけてしまいました。
「あなたは、オーストリア航空のパイロットさんですか?」
「そうだよ!もしかして、僕らと一緒にウィーンに飛ぶの?」
「ですです!」
「でも、日本のパスポート持ってるけど、どうして?」
「日本人だけどウィーンに暮らしているのです。北京には出張で来て、ウィーンに帰るところです。」
4分間のAutomatic People Moverの間に、本で読んだことを聞いてみました。本当にクルーは毎回違うこと、パイロット同士であっても毎回初めて組むこと、北米に飛んだりする便ではオーロラを見ることがあること。最後に、間抜けなことを聞いてしまいました。
「飛んでる間、お天気良いでしょうか?」
雲の上を飛んでるんだもん、晴天に決まっています。何を聞いてしまったんだろう、と思った瞬間、さすがパイロットさん、ウィーンの天気の話に変えてくれました。
「ウィーンは、先週までは10度もない日もあったのに昨日から突然夏になったよ。着陸の時は晴天でウィーンがよく見えると思う。北京と変わらないから、気温ショックはないよ。」

ゲートに着くと、既にコックピットには人影が見えます。操縦、頑張ってくださいね。きっと若いからまだまだ飛行時間を稼いでいることでしょう。
到着したウィーンは、パイロットさんの言葉通り、晴天でした。

生まれて初めてお話ししたパイロットという職業の人は、金髪の超イケメンでした。あともう1分話していたら、「ウィーンに着いたら一緒にお酒飲みません?」と言うところでした。絶対言わないけど。

『グッド・ フライト、グッド・ナイト』私も先日読みました。まさに、とりとめもないエッセイって感じで、眠る前にふと読みたくなって読み返しています。
秋月さん、こんにちは。コメントありがとうございます。とりとめのない文章ですが発散していないのがいいです。深刻にならない軽さがありますが、いざという時の訓練を積んでいる感も所々にあり、こんな人がパイロットなら安心と思ってしまいます。
そうですね、著者のような方がパイロットなら安心ですね。
投稿されている”2度と同じ形のない雲”というのは、本当にそうですね。私も長距離便に乗るときには窓側にします。
秋月さん、例えば世界中のもみの木を集めてきても、完全に重なり合わせて合致する木はないんじゃないかと思うんです。どれも固有で、2度と現れない形。見ていて見飽きることがありません。(あ、でも、やっぱり木を1本だけずっとは見ていられないかもです。笑)
もみの木も、そうですね (余談ですが、昔から時折 無性にO Tannenbaumが聴きたくなります)。種としては同じなんだけれど完全には重なり合わない、というものが世界を彩ってるのでしょうね。
雲も木も、まさにフラクタルですね。各部位は自己相似形でありながら全体としては決して同一にはならない異なる個体として成長しては霧散したり枯れたり日当たりを求めて伸びたり。
2回目に見て初めて気づいたんですが、あんな高いところまで雲がある!って、私は経験した事ないような気がします。降りる途中かな〜。あの中に入ったらタービュランスがすごいんだろうな。何れにせよ絶対窓側ですよね。ANAだかが座席指定を有料にするとか新聞に書いてありましたが、いづれみなそうなるかも。
Gonneko先生、私も帰ってから調べたんです。飛行機の巡航高度は、だいたい8,000m~12,000m。成層圏に入れない積乱雲がかなとこ雲になって広がるのが8,000m(極地)~17,000m(赤道付近)と、ほぼ同じなんですね。動画は、北京を飛び立ってから1時間くらいしたところだったので、巡航高度に達していたのではないかと思います。もしも座席指定が有料になっても、私はきっと窓際を選ぶと思います。だって、窓際族ですもの!