[ 長年の夢だったKungsleden ]
今から10年以上前の2012年の春。スウェーデンの首都ストックホルムに3ヶ月間滞在しました。その時にスウェーデン人の名誉教授から聞いたKungsledenが、その後の10数年の私の夢となりました。
当時、定年退職してもまだまだお元気だった先生。週に数日は部屋に来ては現役の先生を交えて研究の話、家族の話、スウェーデンと日本の文化の違い、ノーベル賞の選考過程、いろんな話をしてくれました。その中で、私が「登山が好き。装備は何も持ってきてないけど何かおすすめはある?」と聞いた時に、こんなことを勧められました。
「Kirunaに行ったと言ったね?ハイキングや登山が好きなら、いつかKungsledenに行くといい。Kirunaの近くだよ。英語でKing’s trailって意味の400kmあるトレイルで、スウェーデン人の多くが歩きに行くんだ。北側の100kmパートはアクセスしやすい。北極圏の景色はきっと日本とは違うと思うからいつか行ってみたらいい。」
それ以来、時々ネット検索しては何度も何度も何度も!何度も!!その景色を見に歩きに行くことを夢見てきました。
でも日本から行くのは遠すぎる。400kmも続く長いトレイル。道路でアクセスができるトレイルの入り口近辺を除いて、ほとんどの場所は基本的に完全な自然の中。20−30kmおきに建つ山小屋以外はただの大自然。100kmですら、何かあった時に英語もろくに話せないのに行ける日が来るとは思えない・・・。というただの憧れの場所になっていました。
そんなKungsledenをついに歩いてきた話を長々と書きたいと思います。まずは準備編。
- [ 長年の夢だったKungsleden ]
- [ Kungsleden (King’s trail、王様の散歩道) とは ]
- [ 検討すべきこと ]
- [ ずっと行きたかった場所だけど ]
- [ 2024年、ついにKungsledenに向けた準備開始 ]
- [ Kungsleden、最終版パッキングリスト ]
[ Kungsleden (King’s trail、王様の散歩道) とは ]
スカンジナビア半島北部のスウェーデン・ノルウェー・フィンランド・ロシアの北部に広がる北極圏に、Lapland(ラップランド)と呼ばれる場所があります。ここには伝統的にサーミ人という先住民族が暮らしてきた場所だそうです。
Laplandの多くは森林限界(気温や降雪量、湿度、照度など植物育成の環境条件により高木が生育できず森林を形成できない限界線)を超えており、平地でも高山のよう植生で高い木がありません。このため、氷河を抱いた山々の間には荒野のような風景が広がります。トナカイ、ヘラジカ、雷鳥などの野生動物が生息することでも知られています。また、Abisko National Park(アビスコ自然公園)周辺などは、オーロラ観測の観光でも有名な場所でもあります。
そのようなスウェーデンの北極圏に、北は Abisko National Parkから南はHemavanまで続く440kmのトレイルがあり、Kungsleden (英語ではKing’s trail、王様の散歩道) と呼ばれています。人の手が殆ど入っていない+ほとんど人が暮らしていない大自然が残されている+けれども公共交通機関でトレイルの入り口までは行けるため、世界中のハイカーが夢見て訪れる場所として知られています。
[ 検討すべきこと ]
長いトレイルを歩くには、まず経験豊富なハイカーである必要があります。あらゆる条件をカバーできる装備、慎重な準備が必要です。私が検討した内容のうち、時期、ルート選択など基本的なことをご紹介したいと思います。
以下は抜粋ですが、詳細に検討した内容や結論を得た理由ははこちらの記事にまとめてあります。
時期:
詳細はこちらの記事にまとめてあります。結論としては、6月末ー9月初旬のみが可能な時期です。私の場合は、最高気温が20度以下、最低気温が0度を下回らない+Fjällräven Classicと被らない8月末(8月20−27日周辺)を選択。
ルートの選択:
主に悩んだのは100km前後になる以下のルートです。
- Abisko to Nikkaluoktaの110km:レベルはHard、Experienced Hikers向け
- Saltoluokta to Kvikkjokkの120km:レベルはModerate to Hard、Experienced Hikers向け
私は北部のAbisko – Nikkaluokta間を選択。ただし南側のNikkaluoktaから北上してAbiskoを目指すルートを選択。確保した日程は6日です。
山小屋泊かテント泊か:
私は、悪天候時には山小屋を利用する可能性+数日分は食料調達に頼るのもアリ、という前提で基本はテン泊にしました。
保険加入:
最低限、旅行保険は入っておきましょう。願わくば、インターナショナルな山岳救助をカバー(特にヘリ搬送をカバー)した保険。
私は、オーストリアの山岳協会の山岳保険に入っていますが、今回はそれに加えてスウェーデンのトレイルをカバーする保険にも念の為加入しました。
[ ずっと行きたかった場所だけど ]
さて、2018年、仕事を得たことをきっかけにオーストリアに引っ越してきました。日本にいる時より格段にKungsledenが近づいた気がしましたが、仕事や住環境に慣れることが最優先でした。
2019年、オーストリア内の登山でもまだまだおっかなびっくりです。
2020年、10年越しでその夢をついに叶えようと準備を始めました。オーストリアに引っ越してきて以来、ずっと心の片隅にあったKungsleden。オーストリアでの登山やスキーにも慣れ、そろそろ考えようかなというタイミングで、コロナ禍に突入。ロックダウンや国境閉鎖が始まり、タイミングを完全に逸していました。そして、2020年、コロナ禍の間に高齢だった先生が突然の逝去。当時、他のヨーロッパ諸国とは異なるコロナ対策を取っていたスウェーデン。コロナのテストやら集まる人数の制限やらで、当然、お葬式にも行けずご家族への伝言だけを伝えてずっと心残りでした。まだKungsleden、行けてないのになぁ。(それより仕事を頑張れって話ですが。)
2022年−2023年、コロナ禍を過ぎて何度か考えたものの、高いフライト代やらで断念。先にアラスカ行くかなぁとか思い始めていました。
2023年-2024年、そろそろオーストリアに居る夏も数えるほどになってきました。2024年はほぼ最後のチャンスです。そんなわけで、春先から密かに心の中でウォームアップを開始していました。
[ 2024年、ついにKungsledenに向けた準備開始 ]
思えば、日本でもオーストリアでも登山に明け暮れていたのは、もしかしたらこの日のためかもしれない、とすら思い始めてきました。
2024年3-4月
そろそろ本腰を入れてプランを始めようかとルートを見始めたり情報収集を開始しました。1人で山小屋でいろんな国から来たお風呂に入ってない臭いおっさんたちと同室で寝られるだろうか。テン泊一択か。1人で悪天候のテン泊を乗り越えられるだろうか。でもこればっかりは私自身が叶える夢。100kmのトレイルを1人で歩くという壮大な夢。
8月のFjällräven Classicの週に行けば、人は多いだろうけど寂しくはないかもしれない。でも人が多いの嫌い。やはりFjällräven Classicの週(2024年は8月9−16日)は避けよう。
6月末−8月初旬は鬼のように蚊が多いらしい。蚊に刺されるとアレルギー反応を起こす私にはあり得ない時期。
8月末か・・・
とぼんやり思い始めていた4月ころ、夏休みの話題になり、何気に「スウェーデンにあるKungsledenという100kmのトレイルを歩く夢を叶えようとしている」という話しをしたところ興味を持つ奇人現る。本当に?奇人すぎない?とりあえず装備や経験など準備が大変そうなので一旦保留。でも、もしも信頼できる同行者がいるなら願ったり叶ったりでもある。
2024年5月
Stockholmから北極圏の街Kirunaまでの夜行列車が、工事のために運行がトリッキーで8月になっても復旧していない可能性があることを確信。航空券が高くなる前にまず往路Wien – Stockholm – Kirunaと、帰路Stockholm – Wienの航空券を予約。
5月中旬になり、たまたま出会ったドイツ人女性と飲み歩いてる間、ハイキングや登山の話ばかりして盛り上がっていたので、ふと「もしかして、Kungsleden行ったことある?」と聞いてみました。すると「スウェーデン側じゃなくてノルウェイ側で似たようなトレイルなら行ったことあるよ!」との返答。「どんな準備したの?トイレとかどうしたの?!教えてパイセン!!!」と懇願。彼女からのノウハウの共有は以下のようなものでした。
- 同行者を慎重に選ぶべし。
- 同レベルかそれ以上の山経験者(読図スキル、リスク対策、緊急時対応..etc)でなければ一人で行った方がマシ!
- ルートを慎重に選ぶべし。
- つまらない景色が何キロも続くと歩くモチベーションを失うよ!
- 持っていく食料は全て事前に試すべし。
- 不味いものを持って行っても捨てるところがないからね!
- フリーズドライフード一択で!調理が必要なじゃがいも等は持って行かないこと!燃料消費するだけだよ!
他にも色々と興味深い知見があったけど重要なのは上の3点。彼女からの助言は非常に有用だったので、また別でまとめておきたいところです。
2024年6月
- Abisko、Nikkaluoktaどちらからスタートするか行程の検討。
- フライト遅延やロスバゲ時のバックアッププラン検討。
- オーストリアに来てから使っていなかったテントをKellerからひっぱり出すと酷くカビていて汚くて速攻で捨ててより軽量なテントに買い替え。
- 軽量化のために重いシュラフは置いていくことにして、軽いシュラフに買い換え。
- Sleeping Mattlessは日本に置いたままだったので、こちらで再購入。
- 久しく使っていなかったバーナー(五徳)動作確認。
- 持ち込む食料の検討と試食。
- 比較的平坦なウィーン近郊で重めの荷物で負荷をかけての長距離(18km)ハイキングの試行。
2024年7月
- レインウェアのテストを兼ねて雨の日に20kmハイキング。(で、レインウェア忘れるバカ)
- キャンプ場でテント泊の試行。
- サイズの合っていなかったテントのFootprintの買い換え。
- 自転車・登山・ハイキング・SUPを繰り返し、体力・筋力を落とさないよう維持。
- Kiruna空港からNikkaluoktaまでのバス予約。
- 帰路の夜行列車も運行状況を見ると、壊滅的そうなので、Kiruna – Stockholm間の航空券も予約。
- それに伴うStockholm一泊のホテルも予約。
- Stockholmに居る先生にKungsledenに行くことを伝える。
- Garmin GPSMAP 67i購入、軽登山で試運用を繰り返し。
- 秋用の防水手袋購入。
- 小物類(小型スコップ、追加ペグ、渡河用サンダル、travel bidet、Solar panel)調達。
- トレッキングポール使って歩いてみる。(普段の登山では使ったことなかったので。)
- パッキングリスト作成開始。
2024年8月
- パッキングリストを何度も見直し。
- 軽量化のため一つずつ重量測定。数gでも軽い方を選択する繰り返し。
- 自然分解する成分の石鹸を調達。
- Stockholmのホテルに普段着やシャンプーの配送を検討。
- First aid kitの見直し、包帯・圧迫止血用テープなど追加。
- インスタント食品を全てZiplockに詰め替え。
- 軽量化のためPower bank買い換え。
- 防寒対策を強化。レインパンツをGoreTex3レイヤーに買い換え。
- 初日からの行程の、可能なMaxと念の為のMinの日々の移動距離とテン泊場所を検討。
- ヘッデン持っていくか再検討。現地ライブカメラ見ると22時はかなり暗いのでパッキングに追加。
8月10日、チロルで蚊に刺されて感染症で腕がパンパンになり1週間抗生剤の服用。
8月20日、なんとか腕が治って無事に出発。
[ Kungsleden、最終版パッキングリスト ]
試行錯誤を繰り返した結果のパッキングリストは以下の通りです。Fjallraven Classicの”Mandatory equipment”を参考に、検討漏れがないか何度も確認しました。実際に測った総重量は16kgほどとなりました。

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というわけで、無事に出発しました!
実際の記録はこちら。
