2024夏、Kungsleden(King’s trail、王様の散歩道)まとめ 準備編

ここでは、Kungsledenに実際に行ってみて、プランニングや準備に費やしたこと、重要だと思ったことをまとめておきたいと思います。

何より、プランニングが肝です。一番時間と労力をかけるのがプランニングです。いつ行くかどのルート行くか誰と行くか、それが全てを決定します。プランがうまくいって、リスクヘッジもできて適切な準備ができていれば、安全に歩ききれる可能性はかなり上がります。(ヘリで搬送される羽目にならないように。)

体力はもちろんのこと、多くのアウトドア経験を積んでいる人ほど安全に快適に歩ききれるのではないかと思います。登山、ロングトレイル、キャンプなど経験を十分に積んでおくことも重要です。その経験をもとに、リスクを極小化したプランニングができるはず。釣り、沢登り、トレイルランニング、クライミングなどあらゆるアウトドアの経験から得られた知識を動員した総合力が役に立ちます。

そして、一応、外国ですので最低限の英語力は必要かと思います。傷病時のため、体の部位、症状(痛み、かゆみ、吐き気、下痢)などの表現は覚えておくのが良いかと。オフラインで使える翻訳こんにゃくみたいのがあればいんですけど。

ざっくりと上記のような項目で重要だと思った点だけをピックアップしていきます。

  • プランニング力・準備力
  • リスクヘッジ力
  • 地形図の読図力などアウトドア総合力
  • 最低限の英語力

  1. プランニング・準備
    1. 時期
    2. ルートの選択
    3. 山小屋泊かテント泊か
    4. 単独行かパーティーか
    5. バディ選び
  2. リスクヘッジ
    1. 保険
    2. SOS送信デバイス
  3. アウトドアの知識
    1. 天気・気温の事前確認
    2. 北極圏で太陽光のある時間の確認
    3. 寒さ対策
    4. 野営に適した場所の事前調査
      1. 地形図
    5. 英語
  4. まとめ

プランニング・準備

別記事で書いたこととも重複しますが、プランニングが一番大変でした。あらゆる情報源を駆使して考えルートを検討し、予定のない日は毎晩のように調べごとをしていました。フライト、電車、可能性のあるテン場、非常時対応、装備。

(1)時期(2)ルート(3)山小屋泊かテント泊か、(4)単独行かどうか、の4点が全ての装備を決定します。私はヨーロッパ内のスウェーデンと時差のないヨーロッパの街に暮らしており時差ぼけはありませんが、それでもKungsledenトレイルのスタート地点までほぼ半日かけて移動しました。時差ぼけがあるなら尚更、どこかで一泊しておくなどの対策も取りましょう。

時期

結論としては、6月末ー9月初旬のみが可能な時期です。それ以外の時期に行くのはクレイジー。(もしもあなたが北極探検隊ならOK。)

  • 北極圏は、冬(9月−5月)、夏(6月末−8月)
  • 8月末には初雪が降り、翌年の5月-6月初旬はまだまだ雪が残っている
  • 山小屋のオープンは6月末ごろから
  • 7月はじめまで山の上の残雪はかなり多いそうで山に登る場合はアイゼン必須
  • 8月末には初雪が降り、9月はほぼ冬の気温
  • 7−8月は蚊のシーズン
  • 小屋の営業やバスの運行は9月中旬まで

というわけで、Kungsledenには、6月末ごろから9月初めにかけていくのが通常です。

山小屋がオープンする前の残雪シーズンは、ほんの少しのスノーブリッジすら落ちると大怪我や低体温症による死の危険があり北極探検隊レベルのスキルの人以外には論外の時期です。ほとんどの場所で携帯も圏外。何らかの方法でSOSしたとて、誰も簡単には到達できない環境です。

山小屋の営業は6月中旬から順次始まります。そして9月中旬にはほとんどの山小屋の営業が終了、ボートの移動が不可能、トレイル起点と街を結ぶバス運行もなくなり、事実上アクセス不可能となります。また、9月に入ると小屋で売られる物品の補給がされなくなるため、食料や燃料の考慮も必要となります。

毎年8月中旬に(2024年は8月9−16日)Fjällrävenというスウェーデンのアウトドアブランドが開催するFjällräven ClassicというKungsledenの北部100kmパートを2000名近くの参加者が踏破するというイベントがあります。世界中からハイカーが集まり、チケットは毎年即完です。このClassicイベント参加者は、山小屋の利用が禁止され食料を含めた全装備を自分らで担がねばなりません。したがって、山小屋が混み合うことや山小屋のご飯がなくなるようなことはない模様ですが、トレイルに人が多いのは確かなようです。この週に合わせれば、1人で行っても寂しくはないかもしれない、という利点はあります。

また、夏場は蚊が大群で襲ってくるそうです。そりゃあもう、すごい量の。すごい大きい蚊が。北極圏の蚊の主な活動時期は7−8月と言われています。気温が20度を超えるような時期が多い時期が要注意。最高気温が20度を下回る日が続き始めると徐々に不活性になっていくようです。蚊が苦手な人はネットなど虫除け対策も必須です。

8月末になると初雪の可能性があります。実際、2018年に9月末の雪(50cm積雪)で遭難し、レスキューの到着が間に合わず亡くなったことがありました。

というわけで、私は年間の気温の推移を確認して最高気温が20度以下、最低気温が0度を下回らない+Fjällräven Classicと被らない8月末(8月20−27日周辺)を選択

ルートの選択


自分のスキルや経験に合わせてルートを選ぶ必要があります。体力と経験に自身があるなら、440km全て歩くも可能です。Kungsledenを歩く場合、代表的な選択肢としては以下のような経路があります。

Trail Section Distance (km) Difficulty Level Recommended For
Abisko to Nikkaluokta 110 Hard Experienced Hikers
Saltoluokta to Kvikkjokk 120 Moderate to Hard Experienced Hikers
Nikkaluokta to Kebnekaise Mountain Station 19 Moderate Moderate Hikers
Kvikkjokk to Ammarnäs 160 Moderate Moderate Hikers
Hemavan to Tärnasjö 40 Easy to Moderate Family-friendly Adventure
Vakkotavare to Saltoluokta 76 Moderate Family-friendly Adventure

このうちの、

  • Abisko to Nikkaluoktaの110km
  • Saltoluokta to Kvikkjokkの120km

は、ある程度の経験があるハイカーなら5-6日で踏破可能とされています。あとは南の方にいくつかFamily-friendly Adventure向けとされるパートもあります。ただし、天候、重い荷物、怪我などの突発的な出来事を考慮してスケジュールを組む必要があるのは当然のこと。

私は北部のAbisko – Nikkaluokta間を選択。さらに、方向としては南側のNikkaluoktaから北上してAbiskoを目指すルートを選択。理由としては、太陽を背中側で受けたいのと、南下するハイカーの方が多いことから何かあった時に出会う人が多い方がリスクヘッジになると考えたからです。確保した日程は6日。5日の行程+天候などで行動不能の場合の1日を余分にみました。

山小屋泊かテント泊か

トレイルには15−30kmおきに大小のSwedish Tourist Association (STF) が運営する山小屋やキャビンがあり、宿泊も可能です。テント装備を持ち歩かない場合は、事前に全ての山小屋を予約しておく必要があります。となると、必ずその距離を歩ききらなければならず、体力やスケジュールとの兼ね合いで慎重なプランニングが必要です。

スウェーデン(というかスカンジナビア諸国)では、特定のNational Parkや市街地を除いてWild Campingが許されています。このため、基本的にAbisko National Park(アビスコ自然公園)外であればどこでもテントを張るのは自由。小屋周辺でのテント泊は、料金を払うことで可能です。小屋によってはトイレやサウナの利用もお金を払うことで可能。

私は、悪天候時には山小屋を利用する可能性+数日分は食料調達に頼るのもアリ、という前提で基本はテン泊にしました。

単独行かパーティーか

日本では単独行の登山に否定的な感覚があるかと思います。行ってみた結果論ではありますが、Kungsledenは時期を選び経験を積み適切に準備をすれば一人でも大丈夫かと思います。また、実際、男女問わずたくさんの単独行のハイカーを見ました。ただし、単独行であれば特に何かが起こらないようにあらゆる準備をする必要がありますし、他人を頼れないという気持ちから準備や計画をしっかりするメリットはあるかもしれません。

パーティで行くなら装備の共有は可能ですが、はぐれないことが大前提になります。長い距離を歩きます。1km離れただけでも見えなくなります。共有装備の一部が足らなくなるだけで、パーティ全員にとっての危機になります。さらに、パーティの誰かに何らかのトラブルが起これば全員が脱落せざるを得ない可能性もあり一蓮托生です。逆に楽しいしリスクも減らせるし良いこともたくさん。日本のテン場のように狭い稜線の平地にせせこましくテントを張るわけではないので、パーティであっても個々にテントを張ることは全く問題になりません。Kungsledenのトレイルでは、2人連れを多く見ました。あとは少ないですが大人数のグループ。

バディ選び

単独行でない場合はバディ(パーティメンバー)選びが最も重要。同レベルかそれ以上の山経験者(読図スキル、リスク対策、緊急時対応..etc)でなければ、一人で行った方がマシということになりかねません。

例えば、欧州人の友人から聞いた話。ドイツ人が生ジャガイモを持ってきて調理に時間がかかり燃料を使い果たしたり、同じくドイツ人が食べたことがない丸ごとサラミを持ってきて美味しくなくて捨てたいと言い出し喧嘩、地球の裏オーストラリアに留学中の旧友が欧州に戻ってきて時差ボケで歩き始めて体調不良、選んだルートの風景が変わらないのがつまらないと山に登り体力消耗し寒さに疲弊、などでこのパーティは険悪になり崩壊。企画した私の友人である本人は終始イライラしていたそうです。(今では良い思い出で笑えるが、それは生きて帰ってきたからだとのこと。)

理論的に、山やアウトドアの常識として考えられていること:例えば、洗剤を使って洗濯することも、歯磨き粉で歯磨きすることも、ボディソープで体を洗うこともできません。(自然破壊になるため。自然に存在する成分のみのものはOK。)

そういう常識を理解し、すんなり受け入れてくれ、価値観を共有し、不便を楽しめる人でなければ難しいでしょう。


リスクヘッジ

保険

最低限、旅行保険は入っておきましょう。願わくば、インターナショナルな山岳救助をカバー(特にヘリ搬送をカバー)した保険。

私は、オーストリアの山岳協会の山岳保険に入っています。今回はそれに加えてスウェーデンのトレイルをカバーする保険にも念の為加入しました。SASで航空券を予約する際にオプションとして出てきたアウトドア活動での救助にかかる費用がカバーされているものに入りました。旅行期間を挟む1ヶ月程度の有効期限がありました。旅行保険の一種だったのでロスバゲや飛行機遅延に関わる損失に関する補填もありました。

SOS送信デバイス

アラスカの北部など、緯度が 62° よりも高い場所では衛生通信接続が機能しない場合があります。

iPhone14以降の衛星通信によるSOS機能は、北極圏はサポート外になっているようです。本当に深刻な事態になった時、自分だけでなく同行者の健康に何かあった時、出会った人がなんらかの理由で助けを求めていた時、やはり緊急通報できる衛星通信機能があるデバイスを持っているに越したことはありません。

コミュニティの投稿を見ていると、あらゆる意見がありました。

  • 自己責任だろう、俺はいらない
  • Kungsledenは人も結構居るので大丈夫、助けを求められるだろう
  • 助けを求めても結局救助が来るのは大変な場所
  • いや、他人に迷惑をかけない意味でもSOSデバイスも含めて自己責任の責任の範疇だろう
  • 場所もわからず操作する側になってみろ、SOSできて場所が特定できた方が迷惑にならないだろう

どれも納得がいくもので、何が正しいかはわかりません。私は、自分を守る意味でも私は持っていく決心をしました。

私が購入したのはGarmin GPS Map 67i。GerminのinReach機能があり且つ地図も見ることができる機能があるものを選びましたが、2024年夏のKungsledenではinReach Mini2を持っている人を多く見かけました。(いずれも登録・inReachの有効化必須)


アウトドアの知識

アウトドアでの常識ってなんでしょうか。ゴミを捨てないのは当然のこと。自分の限界を知る、食中毒対策、寒さ・暑さ対策、衛生対策、怪我対策、悪天候対策、、、、etc挙げればキリがありません。行き先は北極圏です。夏場でも最低気温が一桁台に行きますし、最高気温も25度を超えることは滅多にありません。

天気・気温の事前確認

以下はイギリスのAccuWeatherというサイトのAbiskoの2024年の月間予測をスクリーンショットしていたものです。結果として、だいぶ異なる天気予報になりましたが気温はあらかた合っていました。

夏場でも冷えることを前提に、こういった気温や天候の予測を活用して装備を決定します。天気予報は3日前には確度がかなり高まります。直前までの天気予報は確認しておきましょう。

北極圏で太陽光のある時間の確認

こちらはAbiskoのDaylightの長さを示したグラフです。私の滞在予定となる2024/8/24:は、Nightは無し(真っ暗にはならない)となっています。コミュニティの投稿では、ライトは要らないから軽量化のために置いていけという発言もちらほら見られましたが、ただ、これだけでは結局、20:51以降にどの程度暗いのかはわかりませんでした。

  • Night: Not for this day
  • Astronomical Twilight: Not for this day
  • Nautical Twilight: 00:00 – 03:22 and 22:06 – 00:00
  • Civil Twilight: 03:22 – 04:39 and 20:51 – 22:06
  • Daylight: 04:39 – 20:51

なんらかの理由により遅くにテン場に到着して設営しないといけなくなったら?テントの中で夜中に物を探さないといけない時にも十分明るいのか?

最終的に決めたのは、出発直前の夜21時ごろのAbiskoのライブカメラを見た時でした。曇り空のAbiskoはかなり暗かったのです。これはライト必須。とパッキングに最後に追加されました。

寒さ対策

地面からの冷気の浸透は半端ありません。人間、寒いと寝ることもできません。気温から考えてのシュラフ選び、服装選びは最も重要といって過言ではありません。また、北極圏はほとんど森林限界。風が吹けば逃げ場がありません。

野営に適した場所の事前調査

当然、小屋周りでテントを張ることができればトイレも使えて快適なのですが、小屋にたどり着けない場合も考えておくべきです。出発前から地形図とはかなり睨めっこしました。

この画像は、ネットの拾い物で著作権がわからないものなのですが、この辺りでテントが貼れる=最悪の場合にビバークができる場所であることがわかります。丸が付いている場所は、私も実際に歩いてみて確かにこのあたりなら大丈夫だったなという場所を確認しました。

地形図

事前にオーストリアで地形図を手に入れようとしたのですが、これがなかなか難しかったです。書店では手に入らず、Amazon.deにあるものを購入したものの、スウェーデン北部を全カバーしており、大きすぎてあまり役に立たず。結局、コミュニティの投稿で「全ての小屋で地形図が売られているので現地調達すべし」の投稿を信じて出発し、実際、現地購入しました。

紙の質も濡れても大丈夫なようになっており、大変重宝しました。それでも、事前に地形図を読む力は必要ですし、地形図から情報を得ておくことも重要です。


英語

幸いにも仕事で英語を使っているので、ここは問題になりませんでした。スウェーデン人の多くの方は英語でのコミュニケーションに問題ありません。トレイルを歩いている人たちも多くはヨーロッパから来た人たち。英語ができればコミュニケーションに問題はないでしょう。スウェーデン語までは必要ないと思います。

ただし、傷病時のため、単語だけでもいいので体の部位、症状(痛み、かゆみ、吐き気、下痢)などの表現は覚えておくのが良いかと思います。オフラインで使える翻訳こんにゃくみたいのがあればいんですけども、Kungsledenは携帯も圏外ですのでGoogle translateも使うことができません。


まとめ

以上のようなことを出発前に考えました。あとは現地までの飛行機や電車、バスのアクセスもとても大変な作業でした。

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