Turracher Höhe(トゥルラッハー・ヘーエ)は、オーストリアのKärnten州とSteiermark州の州境、標高約1,800mの峠に広がる小さなリゾート地です。ここはKärnten方面に遊びに行く時、Murau側から一般道で山を越えるルートとして使うことが多く、以前からずっと気になっていた場所でした。でもスキー場としては比較的小ぶりで、道路から見る限りでは設備もちょっと古そうな昔ながらのスキー場という印象だったので、冬ではなく、いつか夏に遊びに行ってみたいと長年私のメモに残っていました。
登山を目的に前日の夕方に到着。湖畔を散策してホテルでのんびり過ごして、星空が綺麗だったので湖畔に天の川を観察に行き、翌朝から登山をしてきた記録です。
Turracher Höheについて
Turracher HöheはNockberge(ノック山地)の中にあり、峠の中心にあるTurracher See(トゥルラッハー湖)をKärnten州とSteiermark州の州境が横切っています。
スキー場のゲレンデマップはこんな感じで、こじんまりとしたなだらかそうなゲレンデです。湖の上にもリフトのような線があり、現地の人に聞いてみると、凍った湖の上を引っ張って移動できるようになるそうです。面白そう!

また、夏がはリフトにマウンテンバイクを乗せてのダウンヒルライドも可能です。
山の方は、丸みを帯びたNockbergeの山々と、標高の高い場所に広がるZirbe(ヨーロッパハイマツ)の森がこの地域の特徴です。街が標高1,700mにあり、街からすぐに登山道へと歩き始められるので、夏は湖の周囲を散策する軽いハイキングから登山まで楽しめそうです。
Turracher See湖畔Walking
何度か車で通過はしていて、降りて写真を取る程度のことはしたことがありましたが、本格的に滞在して散策するのは初めてです。まずはチェックインして、湖畔を散策しに出かけます。



湖畔は一周することができるように散策路が設けられています。


Turracher Seeの他にもGrünsee、Schwarzseeの3つの山上湖があって、これら3つの小さな湖を回るDrei Seen Wegという散策路が整備されています。この散策路はお子さん連れでも体力に自信がない人でも安全に回れるような感じです。

Turracher See湖畔からの天の川観察
夜にはちょっと夜更かしして外に出て星空撮影をしました。
Turracher Höheから7座ピークハント、23km 1600m登坂
そんなTurracher Höheに目をつけること4-5年。数年前のある日、趣味の地形図眺めをしていると、Turracher Höheから2,000m級のピークをいくつもつなぐ稜線歩きができそうなことに気づきました。この長年あたためてきたプランを、ようやく実行に移す日がやってきたのです。
ただ、距離が長い。
行きたいピークを全部繋ぐと最低でも20km、獲得標高は1,500mを超えてしまいます。
ルートを考えながら悩んだのは、最高峰のEisenhut(2,441m)を最優先で目指すか、それとも手前の低いピークを順番に拾いながら稜線を歩いて最後に最高峰へ向かうかということでした。
Eisenhutはルートの一番奥にあるため、「最初に登る」といっても取り付きまで約10km歩かなければなりません。それでも一番の目標を先に達成できる安心感があります。一方、その後に残る長い稜線歩きが時間切れになりそうだと、縦走を諦めてピストンせざるをえません。
逆に最高峰を最後まで残せば、2,000m級のピークを次々とつなぐ稜線歩きを最後まで楽しめます。ただし、その頃にはすでに10km以上歩いた後。体力が尽きれば、最高峰だけ諦めることになります。
悩んだ挙句、今回は稜線歩きの達成感を優先して、最高峰を最後まで残すプランを選択しました。1700m付近の村をスタートし、Schoberriegel (2,208m), Gruft (2,232m), Kaserhöhe (2,318m), Hoarzhöhe (2,319m), Bretthöhe (2,320m), Lattersteighöhe (2,264m), Strasseburger Spitz (2,404m) 、そして時間と体力が許せば最高峰のEisenhut (2,441m)の合計8峰を目指すルートを設定しました。
朝8時半。歩き始めます。この日の天気予報によると、雲が出ても雷雨になることがない無害な雲とのこと。山の天気がこんなに安定する日は滅多にない。安心してじっくり時間をかけて歩くつもりで出発です。
ホテルのおばちゃんが「ちゃんとご飯を持っていきなさい!」とクロワッサンを二つ持たせてくれたけど、十分すぎるくらいに行動食は持っていたので車に置いて行きました。でも、ありがとう、おばちゃん。


緑のゲレンデを横切りながら少し歩くと湖を眼下に望むことができ、向かう10kmほど先のピークも見え始めます。



一つ目のピークまでは家族連れも歩いていて、結構ガヤガヤと家族連れに紛れて登ってきました。みんなどこまでいくんだろう、と思ったけど一つ目のピークから先には誰も進んで来ませんでした。


二つ目、三つ目とずっとピークを繋げる気持ち良い稜線を歩き続けます。



オーストリアの山のピークには十字架が立てられていることがほとんどですが、その十字架も簡易的なものだったり、雷に打たれてどこかに吹っ飛んでいったのか土台しか残っていなかったりのピークもありました。



長い長い道のりです。車まで戻って、車を運転してウィーンに戻る体力も残しておかないといけないので慎重に体力配分を考えながら歩き続けます。基本的には休んでいる時間はありません。


ここでちょっとした岩場。革新部の写真はありませんが、まぁまぁ足滑らせたら真っ逆様な場所も無事に通過しました。




遠くには氷河が見えました。場所的には、Mölltaler Gletscherが見えていたのではないかと思われます。



最高峰のEisenhut(2,441m)は諦め、その手前のStrasseburger Spitz (2,404m) を最後の7峰目のピークとして、下山することにしました。もうお腹いっぱいってくらいの距離の稜線を歩きました。
と、そこで久しぶりに人間に出会いました。
「久しぶりに人間を見たわ!!!」
「私も同じこと思った!!この山、人いないねー!」
と、かれこれ10km以上歩いてきましたが、最初のピークこそ人がいたもののその後はほぼ無人。すれ違ったのはおじさん一人だけでした。反対側から回ってきた彼女も同じことを思っていたようです。お互いの残りの距離を話し合って検討を祈り合いました。彼女はマーモットを見かけたそうですが私は声を聞くことしかできませんでした。



下山がこれまた距離が長くて、ほとんど歩いてきた距離をまるっと戻ることになります。その上、登山道の表示が曖昧だったりほとんど人が歩いていないのか踏み跡が明瞭でなかったりで何度も道を見失っては戻って登山道を探して歩いて、さらに登り返しもあって疲弊。


最後の方はさすがに疲れてぼんやりしながらとぼとぼと歩いていると、ふと自分の腕に貼っていた肌色の絆創膏が一瞬ナメクジに見えて、飛び上がるほど驚きました。
ナメクジが腕についてるってどんな状況やねん。
とまれ、無事に下山をして湖に足を浸してクールダウン。
結局、最後のEisenhut (2,441m)を諦めた7峰を歩いて、23km、獲得標高1600mを9時間ノンストップで歩いてきました。程よい疲れと達成感。

一人で山を歩いている時間に感じる自由がたまらなく好きです。撤退するも進むも天気予報を信じるも直感を信じるも準備を怠るも何もかもが自己責任。自分の体力を鑑みて体力の配分を考え、でも行きたい場所と見たい景色のために頑張ったり、自分の力だけで歩き続けることが私にとっての至極の時間です。
ホテルのおばちゃんが持たせてくれたクロワッサンを頬張りながら運転してウィーンに帰還しました。

